本文へ

ホームミールマイスター WEBテキスト ロゴ(一社)日本惣菜協会

ホームミールマイスター WEBテキスト

HOME MEAL MEISTER 02農畜水産物の生産と流通


8-野菜・果実 青果物の旬

春夏秋冬を四季の移り変わりを肌で感じながら暮らしている私たち日本人は、「旬」という言葉から「新鮮でおいしそうな食材」というイメージを思い浮かべると思う。広辞苑によれば、「旬」とは「魚介、野菜、果物などがよくとれて味の最もよい時」とある。

では、それぞれの野菜で「よくとれる時」とはいつを指すのだろうか。スーパーマーケットを思い浮かべてみると、多くの野菜が1年中店頭に並び、いつでも手に入れることができる。野菜での「旬」とはどのように考えればいいのだろうか。


植物の生長は、温度や光の影響を受ける。生育に適した温度があり、植物の種類によって異なる。寒さに弱い植物は、冬になると枯れてしまう。また、暑さに弱い植物は夏に成長が止まったり、場合によっては枯れてしまうものもある。

光は、植物にとって必要なエネルギーだが、日の長さ(昼間の長さ)も重要である。昼が長くなる、また逆に短くなると、花芽が分化する(蕾を作る)場合がある。野菜も植物なので、野菜を栽培する時には、当然、温度や光の影響を受ける。

(1)トマトの場合

例えば、トマトは低温では成長が悪くなり、霜に当たると枯れてしまうので、自然の状態では冬にトマトを作ることができない。春先に種を蒔き、暖かさが増すごとに生育が進んで花を咲かせ、夏頃に収穫の最盛期を迎え、秋には収穫を終わらせる。ということで、トマトは夏にたくさん穫れて旬は夏ということになるが、実際はそうではない。温室やビニールハウスが開発されて利用されるようになり、冬でもトマトを栽培することができるようになったからである。

「どの時期にどのように栽培するか」ということを「作型(さくがた)」と呼ぶ。トマトの場合「促成」「半促成」「早熟」「抑制」といった作型があり、様々な地域で様々な作型でトマトが栽培されているので、1年中スーパーマーケットにトマトを並べることができる。ナス、ピーマン、キュウリなどでも同じようなことが言える(図1)。

栽培する地域等によって、播種、定植、収穫の時期は若干ずれる。

図1 様々な「作型」の組み合わせによる野菜の「周年供給」体制(トマトの場合)

(2)ホウレンソウの場合

ホウレンソウは寒さには比較的強いが、夏の暑さには強くない。また、ホウレンソウは昼間の長さの影響も受ける。ホウレンソウは低温に当たった株が長日(ちょうじつ)条件*1になると、抽(ちゅう)だい*2し、商品価値がなくなるので、自然条件の下では、晩春から夏にかけてはトウ(花茎)が立ち、暑さにも弱いので、栽培するのに適した秋や春が収穫のシーズンとなる。ところが今では、日の長さに鈍感な品種や暑さに強い品種が開発され、涼しい高冷地などで夏でもホウレンソウがたくさん栽培されるようになった。もちろん、ビニールハウスを利用すれば冬でも栽培することが可能である。ホウレンソウも「春まき」「夏まき」「秋まき」「冬まき」といった作型があり、1年中店先に出回るようになった。

*1 長日条件

昼間の長さが長くなること。日本では春から夏の時期に相当する。

*2 抽だい(ちゅうだい/抽薹)

「トウ立ち」とか「トウが立つ」ともいう。花芽がついた茎(トウ)が伸びる、つまり花が咲いてしまい野菜の食用部分の利用ができなくなること。


多くの野菜では、自然条件では栽培できない時期があるために、昔はそれぞれの野菜で収穫できる時期、いわゆる「旬」というものがあった。しかし、例えばトマト入りのサラダやホウレンソウのソテーを1年中いつでも食べたいという人々の欲求を満たすため、多くの野菜の研究者が品種改良や栽培方法の開発に取り組んできた結果、今では多くの野菜で、いつでも手に入るという「周年供給」の体制が整えられてきた。また、時期にかかわらずおいしい野菜を栽培する研究も進められてきている。野菜の「旬」は、なくなってきたというよりも1年中に広がったと言った方がいいかもしれない。


<参考HP>