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HOME MEAL MEISTER 05加工食品


56-保存の技術 温度制御(1)冷蔵・チルド

食品は、貯蔵中に微生物の繁殖や食品中の酵素反応、化学反応などが起きて変質していく。保存温度が低くければ低いほど微生物の発育は不活発になり、酵素反応や化学反応速度は低下する。このため低温は、食品の変質を抑制・阻止する有効な手段となる。

表1に 細菌類の発育温度域を示した。好熱細菌としては、缶詰の変敗菌であるBacillus stearothermophilusBacillus coagulansがよく知られているが、これらの最適生育温度は50~60℃以上である。しかし、食品の変敗菌や食中毒菌のほとんどは中温細菌か低温細菌である。低温細菌は、乳・乳製品などの低温保存条件である10℃以下で発育することができる。食品に関与する低温細菌やカビ、酵母の多くはこの温度域で発育することができるので、冷蔵食品の微生物管理に十分配慮すべきである。

表1 細菌の発育温度域

保存可能な期間 発育温度(℃)
最低 最適 最高
好熱細菌 30~45 50~60 70~90
中温細菌 5~10 25~45 45~55
低温細菌 -5~5 25~30 30~35
好冷細菌 -10~5 12~15 15~20

また、図1に、食品の低温貯蔵・ 低温流通 に用いられる温度帯を示した。低温貯蔵では、一般食品の保存には5~10℃が使用されている。しかし、水分が少ない穀類や低温障害を起こす青果物などはそれよりも高い温度帯が、逆にチルド商品には5℃以下が使用されている。乳・乳製品に限らず、一般の冷蔵食品にあっても細菌の発育を制御する観点からは、5℃以下で保存することが望ましい。

※CA貯蔵:従来の冷蔵保存にガス濃度の調整を加えることでより長期に新鮮に保存させる貯蔵システム

図1 食品の保存温度帯(出典:日本水産HP「おいしさを科学する」)


(1)米の低温貯蔵

一般に米の貯蔵は15℃以下、通常13~14℃、相対湿度73~75%で行われる。熱帯起源の貯穀害虫の多くは15℃前後で動を停止し、食害や繁殖を行わなくなる。食害の阻止に加え、カビ抑制効果もある。低温貯蔵から常温に戻すと害虫の繁殖が起きる場合があるので注意を要する。

米の低温貯蔵の長所としては、①低温により米の呼吸を抑制するので成分の消耗が少なく新鮮さが保てること、②米の食味低下や品質劣化を防止できること、③微生物や害虫の被害を防止できることなどが挙げられる。

野菜、果実などの青果物は一般の加工食品と異なって収穫後も生きており、水分を多く含み、軟弱なものが多いので傷みやすい。このような青果物を収穫時の鮮度や品質を保ったまま貯蔵・流通するには、収穫後できるだけ早く低温にすることが基本である。このため、一般的には予冷処理が行われる。予冷とは、青果物の品温を、冷蔵施設に搬入する前に、あらかじめ強制的に下げることである。その際、空気冷却や真空冷却、冷水冷却などの方式が使用されている。予冷の効果として、呼吸の抑制、追熟・老化の防止、水分損失・萎凋の防止、腐敗の防止などが挙げられる。

青果物の品目によっては、0~10℃の低温で貯蔵すると、常温においた場合よりも品質が劣化し、 腐敗を早めることがある。この現象は、低温障害 と呼ばれている。低温障害は、青果物を低温で保存した際に生じる生理障害であり、青果物の表面のピッティング(小さな斑点、小さな陥没)や内部の褐変、変色、異臭の発生、追熟不良などを引き起こす。一般に、熱帯原産の青果物はこのような低温障害を引き起こすことが知られており、ウリ科、ナス科、カンキツ科なとが゙受けやすい。低温障害を起こす限界温度は、青果物の種類によって異なり、冷蔵庫外へ搬出後に症状が現れることもあるので注意が必要である(青果物の温度管理については、2章−10参照)。


最近は、冷蔵室や冷凍室以外に、0℃近辺に温度設定をしたチルド室、パーシャルフリージング室、寒温庫などに分かれた精度の高い冷蔵庫が家庭用に普及している。これらは冷却機や温度管理技術が発展し、精度の高い温度制御が可能になったことが背景にある。これらの新低温温度帯として、チルド温度帯(ー5~5℃)、パーシャルフリージング(ー3℃付近)、氷温貯蔵(-1℃付近)、寒温帯(ー1〜ー3℃)などがある(図1)。チルド温度帯は、氷結点近辺の低い温度を利用することで食品の厳密な品質保持を行うことができるので、凍結すると品質が低下しやすい食品などには、チルド温度帯の利用は有効である。しかし、この温度帯でも、低温細菌の発育や化学変化は起きているわけで、長期間の貯蔵は避けなければならない。


<参考HP>