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HOME MEAL MEISTER 08惣菜・弁当の製造から売場まで


92-惣菜製造の衛生管理・HACCP

よく耳にする「衛生」という言葉は、私たちの日常生活では「清潔に保つこと」を意味する場合が多いが、本来は「健康に悪影響を及ぼす原因となる可能性のあるもの(危害要因)を特定し、それを予防する積極的な行動」を指す。

衛生のうち「食品衛生」は、食品が生産されてから私たちの口に入るまでの間、つまり、①生産(農畜水産物の生産)、②製造・加工(工場や店舗での加工)、③流通(運搬や貯蔵)、④販売(小売店での包装・保管・販売)、⑤消費(保存・調理)といった全ての過程で、食品が汚染・変質・腐敗することを防止する対策を意味する。本項では、②製造・加工過程での食品衛生について説明する。


家庭における食中毒予防の原則は「つけない」「増やさない」「やっつける(殺す)」の3つであるが(第3章-39参照)、この原則は、食品加工従事者の製造・加工においても基本的に同じである。食品企業では、職場の環境づくりや食品安全を求めて実施する「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾(しつけ))」に「洗浄・殺菌」の2Sを追加し、食品衛生に特化した「食品衛生の7S(整理・整頓・清掃・清潔・躾・洗浄・殺菌)」の推進が進められている。これは「清潔」な製造環境を作り出すことによって「食品安全」を得ようとする考えに基づくものであり、一人一人の衛生への意識と行動が、衛生の必須要素である。


(1)加熱後包装する惣菜(炊く・煮る・揚げる・焼く・蒸す等)

食中毒菌の大半は85℃・90秒以上の加熱により死滅するため、通常の調理温度により食中毒の危険性は抑えられる。調理後の盛付等による菌等の再付着を防止することで、安全が保たれる。しかし、食中毒菌や腐敗菌の中には、100℃の温度でも死滅しない菌が残るため、加熱後の惣菜を冷蔵庫保管して菌等の増殖を抑えることが肝心である。常温や加熱販売されている惣菜は消費期限が短いので、消費期限を確認して購入する。

(2)包装後加熱する惣菜(袋入り惣菜・密閉容器入り惣菜等)

包装後加熱することで、包装資材中で殺菌を行い、その後に外部の空気が直接中身に触れることがないため、菌等の再付着を100%抑えることが可能となる。レトルト食品は100℃で死滅しない菌を120℃・4分以上の加熱で完全殺菌して常温保管できるようにした製品であるが、惣菜における包装後加熱は、完全殺菌の温度まで上げない温度で殺菌することで、食感や風味を残している。ただし常温に放置すると100℃でも死滅しない菌が増殖を始めるので、包装表示等を確認し、「要冷蔵」とあれば、必ず冷蔵庫での保管が必要である。また開封後は外気に触れるため、すぐに食べる。

(3)加熱しないで洗浄・殺菌する惣菜(サラダ類・お浸し類)

生野菜やおひたしのような熱による殺菌ができない場合は、薬剤による洗浄・殺菌を行う。通常薬剤は塩素を使用するが、様々なタイプの殺菌剤があり、それぞれの効果と味や匂い等も考慮して使用されている。特に鮮度が重要な製品であり、購入後は早めに食べる。

(4)加熱及び洗浄・殺菌しないで包装する惣菜(おせち・パーティーセット他)

惣菜は様々な組み合わせの製品をつくる。「おせち」などはその典型で、全ての惣菜を1つの製造現場で作ることはなく、かまぼこやだし巻き卵、煮豆など専門の業者から仕入れて詰め合せる場合もある。その場合にも盛付等による菌等の再付着を防止することで、安全が保たれる。

詰め合わせ製品は一番日持ちのしない食材に合わせて消費期限を設定しているため、期限が過ぎても食べられる原料もあるが、常温放置の多い「おせち」などは、5℃に近い低温の場所(冷蔵庫)で保管すると安心である。


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HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)は、1960年代にNASA(アメリカ航空宇宙局)が宇宙食の安全性を確保するために考案した食品衛生管理システムである。この手法は食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同機関である食品規格(コーデックス)委員会から発表され、各国にその採用を推奨し国際的に認められたものである。

日本では「総合衛生管理過程(HACCPシステム)」と呼ばれ、このシステムで衛生管理が行われている工場等で製造された牛乳やハムなどの食品にHACCPマークが表示されている。

このシステムが従来の衛生管理手法と違う点は、最終製品の抜き取り検査等により安全性を担保するのではなく、製造工程中の重要な段階を連続的に監視することによって、最終製品の安全性を担保する点である。

HACCPを導入した施設では、必要な教育・訓練を受けた従業員によって、定められた手順や方法を日常の製造工程で遵守することが不可欠となり、企業の多くが「品質・安全性の向上」「企業の信用度やイメージの向上」「従業員の意識の向上」の効果があったとしている。

製造工程における「安全・安心」を確保するために、惣菜製造においてもこのHACCPシステムの導入が進められているが、日本ではさらに食品衛生を強化するため、東京オリンピック開催の2020年を目標に全ての食品等事業者を対象に「HACCPの制度化」が検討されている。