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HOME MEAL MEISTER 07食の文化と環境


86-地産地消、スローフード

「スローフード」という言葉は、かなり認知されるようになったが、どんな意味かと訊かれると、その答えはまちまちである。イタリアでスローフードという言葉が生まれたのは1986年で、30年近く前のことである。その頃、永遠の都ローマのスペイン広場からほど近い場所に、世界最大手のハンバーガー・チェーン店が、ローマ第一号店を開いたことがきっかけであった。「景観を損ねる」あるいは「子どもたちが、伝統的な食文化を失っていく」といった議論が起こり、住民たちの反対運動に発展する。結果的に店は開店に漕ぎつけるが、この動きに触発されて生まれたのがスローフード運動である。アメリカ型の「ファストフード・ビジネス」に象徴されるような大量生産、大量流通の食のあり方にイタリアも飲み込まれてしまうのか、そんな危機感の中で生まれたのが、スローフードという言葉であった。

スローフード協会というNPO団体の本部が、人口約2万8千人の北イタリアにある小さ小さな田舎町ブラで発足し、今やアメリカやドイツ、北欧、インド、ペルー、日本と世界中に約8万人の会員が活動をしている。活動の目的として、生物多様性の保護、味覚教育、生産者と消費者の関係を結ぶことの3点を挙げている。


スローフードの意味は、まず「多くの人が考えるようにゆっくり時間をかけて食べること」というのは間違いではない。確かに、家族や友人とゆっくりと食卓を囲む機会を持つことは大切である。しかし、そんな単純なことではない。また、ファストフードの反対運動でもない。もっと広い視野を持ち、今あるべき食について、社会、環境、科学あるいは哲学など広い視点をもって考え、行動しようという運動である。

大量生産や大量流通によって、規格や衛生法の強化が進み、世界中の味が均一化していく。大量のエネルギーを使って、食べ物が海を渡り、高速で駆けめぐることで地球にも負荷をかける。どこの国も、都市も田舎にも、チェーン店が並び、どの店先にもグローバルブランドのインスタント食品が並ぶ。一方、地域でその風土や社会に培われた食の伝承が失われていることも確かである。スローフード運動は、その失われゆく食文化に注目し、つくる人、伝承する人、食べる人を支えて行こうというものである。


日本には「身土不二(しんどふじ)」という言葉がある。「身体と土(環境)は、ひとつのものである」という意味であるが、食べ物を含め水や空気も、暮らしている場所の気候・風土に合ったものを身体に入れることが大事であるという考え方をいう。たとえば、寒い冬には、身体を温めるものを食べるが、冬の作物をみると身体を温めるものが多い。冬にきゅうりやなすを食べることは、身土不二には反することである。

日本は、世界中から食料を輸入し、季節を問わず、あらゆるものが食べられる状況にある。その一方で、自給率の見直しや流通のためのエネルギー(フードマイレージ)の観点から、できるだけ近くのものを食べようという「地産地消」という考え方が普及し、身近なスーパーマーケットの売り場などでも、地元産の農産物を特別に扱った売り場をみかける。同様に、欧米やアジアの都市部でも「Buy Local(地元産のものを買おう)」という動きは盛んになってきている。

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スローフード、地産地消、いずれにしても、その背景は、食の生産の場と消費の場が遠く離れてしまったことにある。消費者は、その背景を考えることなく、食の選択をしていることが多い。

例えば、今やアジアを中心に水産物の需要が高まっており、その多くは、消費する国から離れた国での養殖業に支えられている。エビの養殖の盛んなエクアドルの川では、エビだけを育てる養殖が、自然の防波堤だったマングローブの森をなぎ倒し、土壌を弱らせ、水鳥までも危機に追いやり、生態系に大きな負荷をかけている。このように、我々の食べるものは、遠い国の人々の暮らしと密接にかかわっている。エビだけなく、すべての食品にこのような背景があるはずである。

企業だけでなく、消費者も食文化を形成する一員なのである。食の出所を知り、どのように選択するかは小さなことだが、一人一人の選択を積み重ねると大きな力となる。消費者も責任の一部を負っており、食の出どころや背景を知ることが大切であると考える。


<参考文献・HP>